ストローク数を減らしたら、25mのタイムは遅くなった。逆に、腕を速く回したつもりでも、時計を見ればほとんど変わっていない。どちらも「回数」だけを見ていると、何が変わったかを読み違えます。

ピッチとストローク長は、同じ区間の速度と一緒に見ます。 ひとかきで進む距離を増やすことと、一定時間に腕を動かす回数を増やすことは、別の変化です。クロールの数え方をそろえたうえで、その組み合わせを確認します。

泳速度は、ピッチとストローク長の積で表せる

ピッチは一定時間あたりのストロークの頻度、ストローク長は一つの動作で進む距離です。ここではクロールの左右の動きを一組とする「1サイクル」で単位をそろえます。

泳速度(m/秒)=ピッチ(サイクル/分)×ストローク長(m/サイクル)÷60

たとえば、45サイクル/分で、1サイクルに2.0m進むなら、45×2.0÷60=1.50m/秒です。この数字は計算のための架空の設定で、目標値ではありません。

ストローク長は「手を前に伸ばした長さ」ではなく、1サイクルの間に体が進んだ距離です。また、左右それぞれの腕を1回とするピッチに、左右一組で測ったストローク長を掛けると、単位が合わなくなります。片腕と1サイクルの数え方を先にそろえてください。

この式は、同じ区間で測った速度と動作の関係を表します。タイムとピッチからストローク長を計算できても、それだけで推進力や体力を測れたことにはなりません。

伸びが増えても、ピッチの低下が大きければ遅くなる

次の表は、式を確かめるために編集部が作成した例です。特定の選手のデータでも、理想的な泳ぎ方の順位表でもありません。

仮の
泳ぎ
ピッチストローク長計算上の
泳速度
A45
サイクル/分
2.00m/
サイクル
1.50m/秒
B40
サイクル/分
2.10m/
サイクル
1.40m/秒
C50
サイクル/分
1.86m/
サイクル
1.55m/秒

BはAより1サイクルで長く進みますが、ピッチが下がり、計算上の速度も落ちています。CはAよりストローク長が短くても、ピッチとの組み合わせで速度が上がっています。

つまり、「長く進めた」「回数が増えた」という一方の変化だけでは、速くなったかを決められません。ストローク長が短くなったことを、すぐに「水をつかめていない」と言い換えるのも早計です。腕の動きや呼吸を確認するには、数字とは別に観察が必要です。

なお、壁蹴りを含む25m全体の距離をストローク数で割った値は、壁から離れて泳いでいる区間だけの値とは条件が違います。壁蹴りの勢いが変わった試行を混ぜると、腕の動作を変えた結果なのか判断しにくくなります。

研究で出たピッチを、そのまま自分の目標にしない

Moraisらの2022年の研究は、若年の短距離選手38人を対象に、25m全力泳の途中の動作を分析しました。この集団では、最も高いピッチが最も速い泳速度に対応したわけではありませんでした。

ただし、呼吸をしない条件の短距離試技です。普段の呼吸を伴う泳ぎや、マスターズの400mに共通する最適値を決めた研究ではありません。集団を測った結果と、自分がペースを変えたときの結果も区別して読みます。

自分の比較では、他人のピッチへ近づけることより、同じ目的の泳ぎで速度や感覚がどう変わるかが確認の対象になります。50mで出せたテンポを、長い距離でも維持できるとは限りません。

ピッチは、右手の入水から次の右手の入水までで測る

サイクルの時間を動画などで測るなら、同じ腕の同じ場面を目印にします。たとえば右手の入水から、次の右手の入水までが1サイクルです。3サイクルを測るなら、基準の入水を「0」として、その後の右手の入水を「1、2、3」と数えます。入水は計4回見えますが、その間隔は3つです。

架空の例として、3サイクルに4.0秒かかったなら、3÷4.0×60=45サイクル/分です。途中で手が画面外に出たときは、無理に小数まで読まず、測れた区間や測定不能だったことを残します。

区間タイムも見る場合は、壁の近くを含めるか、泳いでいる部分だけにするかを毎回そろえます。異なる位置のタイムとピッチを組み合わせて、正確なストローク長が出たことにしないようにします。

自分で泳ぎながら数える、同行者に時計で測ってもらう、利用可能な施設で動画を撮る。方法が変わった場合も記録に添えてください。水泳の練習記録のひな形に、計測区間とサイクル数・秒数を追加すると、元の数字から計算し直せます。

短い区間で速くなった後は、後半でも続くかを確かめる

普段の泳ぎと、少しテンポを変えた泳ぎを比べるなら、距離、壁からの出発、道具、休憩をそろえて記録します。毎回いくつも変えると、何の変更が数字に表れたのか説明できなくなります。

タイムが速くなった場合も、同じセットの後半を見ておきます。最初だけ速く、その後は出発時刻に間に合わなかったのか。タイムは保てたが、呼吸のたびに動作が止まったと感じたのか。「回せた」と「続けられた」は別々に記録できます。

反対に、ゆっくり泳いで動作を確かめる練習なら、その日の最速タイムを更新しなくても目的に合っています。テンポを落としたときに苦しくなる問題は、ゆっくりのクロールが難しいときの確認点で詳しく扱っています。

400mのレース中にどこでテンポや出力を変えるかは、区間のピッチだけでは決まりません。400m自由形のペース配分で前半・中盤・終盤のタイムを並べ、実際に速度を保てた区間と照合してみてください。

参考資料